ありがとうのこころを絵に

ぐるぐるアートの心理学的側面

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             追手門学院大学心理学部 教授 溝部宏二
(前鳥取大学医学部精神行動医学分野科准教授医博)

ぐるぐるアート10周年おめでとうございます。世話人会代表を務めておられます喜美子
さまとは、私が鳥取大学に勤務しておりました2007年まで家族ぐるみでお付き合いをさせ
て頂いておりました。新聞に掲載された「ぐるぐるアート」の記事を読みまして、「これは
曼荼羅(マンダラ)だ!」「芸術療法だ!」「内観だ!」と、とても興奮した経験がござい
ました。後に、ご主人さまから奥さまが代表をされているとお聞きして不思議な御縁を感
じました。
前置きが長くなりましたが、私の専門である「心理療法」という観点からぐるぐるアー
トについて考えてみたいと思います。
喜美子さまも述べられておられますように、これは「マンダラ」の一種と考えてよいと
思います。マンダラとは全体性、円、集合などが元来の意味であり、転じて仏教において
は「真理に目覚めた悟りの境地」を示す言葉となりました。マンダラの精神医学的理解は
有名なュングが行っており、ます。「マンダラを描くことで心のバランスを回復することが可
能」と言えるのでしょう。
次に芸術療法としての側面は、単なる言語表現では示すことの出来ない、心の奥底の現
実が表現される可能性を秘めていることでしよう。絵画療法の場合(ぐるぐるアートはこ
こに分類できます)は、描き手は自分のイメージを投影して作品に臨みます。当然作品に
は描き手の内界が描き出されます。作品に現れた自分の内界を客観的に見つめ直す機会と
なるのです。しかも、ぐるぐるアートには集団で大きな作品を作り上げるという方法もあ
ります。各個人の内界が他者の内界と混じり合って作り上げられた作品は、個人の閉じら
れた狭い世界(最近、大人も子供も自閉的世界に住む方々が多いようです)を超えて集団
の一員(更に言えば、人類の、生物の一員)としての一体感を感じさせるものと考えてい
ます。また、ぐるぐるアートには、「ありがとう」という言葉が含まれています(そういう
意味では、典型的芸術療法とは異なります)が、これは、後で述べる様に、人間固有の「意
味を伝える」だけの一般的な「ありがとう」という言葉が、ぐるぐるアートを実施してい
る間に動物の鳴き声などとも共通する「リアルな感情やイメージをも伝える」シンボルと
してのことぱへと変化するので、単なる言葉を用いたセラピーでは無いとも考えています。
最後に、ぐるぐるアートの最大の特徴は構成要素として「ありがとう」というシンプル
な感謝の言葉を繰り返して記載する点が挙げられます。「ありがとう」という言葉はあまり
に身近で、その本来の意味が希薄になり、虚礼となり心を込めて「ありがとう」と言う機
会が減少しているのではないでしょうか。文字にすることは、その言葉を相対化する(少
し難しい言い方ですが、「距離を置いて眺める」という意味合いです)ことが可能になりま
す。改めて文字にして繰り返し書いてみるみると、その手垢にまみれた「ありがとう」の
言葉の本来の意味が突然よみがえり「シンボル」としての働きを取り戻す瞬間があるので
しょう。これは喜美子さまのご主人や私が関わっている「内観療法」と共通する部分が多々
あると感じています。内観療法では、「自分は何と沢山周囲に迷惑をかけてきたにも関わら
ず、お世話になり愛されて生きてきたか」という事実に気づかせます。すると当然、周囲
より与えられてきた御恩に報いる行為が発動されるのです。内観療法を通じて、人として
の成長が促され、充実した人生を生きることが可能になります。ぐるぐるアートでも、内
観で得ることが出来る「被愛(愛されて生きてきた)事実の発見」に到達することが出来
ます。内観療法は短期間で素晴らしい効果を得ることが出来ますが、一週間泊まり込みで
真剣に取り組まなければなりません。しかし、ぐるぐるアートは誰でも何処でも簡単に取
り組めて、楽しみながら感謝の心を育むことができるのです。この素敵なぐるぐるアート
が、愛すべき情緒溢れる山陰の地で生まれたことを誇りに思うと共に、今後更なる普及が
進み、多くの方々がより心ゆたかな人生を過ごされんことを期待いたしております。

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